長森浩平/タイピング・ハイ! (1)

遂に買ってしまった、噂の縞ぱんちゃん。
AIネタ、脳神経科学ネタなんだけれど、その点に関しては散漫で納得できない。AIの本質は擬人化できない部分にあり(従って大多数の人間にとって容易に扱える物ではなく)、機械、もしくは環境のサブシステムとして扱うべきだという設定は好ましい。
でも、実はその辺はブラフで、一番面白いのは、作中の「おかっぱ会長」との短いやりとりでも触れられる、ドライさと要領良さを自由に行き来する、主人公の不思議な性格にあるのだろう。
ドライな人物を描くにしては、いささか中途半端なのだが、その中途半端さ、ひいては自己中心的に都合のいいモードに人格を切り替える手並み、そのこと自体に、是非も何も感じていない点が、なかなかすごい。
しかも動機が無い。ドライなのに、別の価値観も持ち合わせていないのは、そうとうキツい。唯一、執拗に強調されるのは『好奇心』なのだが、字面では近そうな、ハードSFや森ミステリに出てくる研究者の好奇心とはまるで違う、どこか言い訳じみた『好奇心』だ。彼が何のためにウェービーさんと組んでAIを作ったのか、どうしてアリエルの死を看取るような羽目になったのか、そこに根本的な、どうしようもない理由といったものは存在しない。ネトゲを、やる気無くプレイして、何となくイベントが進んでいる感じだ。
見かけによらず、根はなかなかに暗い話ですな、これは。