ニコラス・G・カー 『クラウド化する世界』

今頃読んだ。と思ったら、そんなに経ってなかったのね、ずいぶん前に出た本だと思っていた。
原題は"The BIG SWITCH"。

まとめ

クラウドについては省略する。


かつて、あらゆる場所にあった「発電機」を集約した「中央発電所」の登場により、圧倒的に安価なエネルギーが供給され、生産と生活が根本的に変化した。工場でベルトや滑車を管理していた仕事は消滅し、家庭にはあらゆる種類の電化製品が溢れることとなった。クラウド化の効果は同様であろう。鍵は、標準化と効率(稼働率を含む)と分配である。
クラウドとインターネットがもたらすものは必ずしも楽観的な未来ではない。

  • 会社のIT部門は死滅する。少なくとも現在とは異なる姿になる。
  • ネットビジネスでは、「規模の経済」が無限に働く。物理世界では量産によるコスト削減には限界がある。
  • 多くの人の労働力を集約し、利益をごく一握りの人間に集める。格差が進む。一握りの会社、ですらない。Youtube創始者は3名だ。GoogleYoutubeを16億5000万ドルで買収し、そのうち10億ドルをこの3人が得た。労働力はYoutubeへの投稿者達であり、もちろん給料は支払われていない。
  • だが、そのようなプログラムへの参加は「楽しい」。
  • 「WWWをプログラムするとき、我々は自身の生活をもプログラムしている」 / パーツを組み合わせてブログを作る行為も、やがてはそこに通ずる。リンク指向。
  • コンテンツはばら売りされる。
  • ネット上では異文化は融合よりも対立の方向に進む。推薦システム・ターゲッティング広告がそれを加速する。文化は平板になり深みを失う。作り込まれた・硬派なコンテンツは人気を得られなくなる。
  • ネットは「間違った」使われ方をする。その管理方法について、やがてイデオロギーの間で冷戦じみた闘争が起きえる。
  • 被雇用者の能力を最大化することと、組織の効率を向上させることは対になっている。クラウドのサポートを得るとき、匿名性は幻想である。クラウドが個人をサポートすることは、同時に組織に対して武器を与えることでもある。

感想

こういう本の例に漏れず、途中から切れ味が鈍る。編集段階で力尽きてる感がある。

利益は一握りの人間に、というのは、少なくとも一時的にはその通りだろう。ただし格差が不安定を呼ぶのは常識なので、様々な形で是正の試みが成されるだろう。一つは所有権や著作権、マイクロペイメントなどのシステム化・法制化、二つ目は富の再分配で、税制と福祉だろう。そして、最後の、もっとも大きなものは教育であろう。
恐らく、創造的なデザインを行うための教育、というものがこの先重要視されるのだろう。米国では5歳ぐらいから思いっきりやりそう。見込みのある子供がテストで選別される必要があるから、その辺の研究が進むだろう。
残りの(見込みのない)人は、犯罪さえ起こさなければ、アルバイト後にニコ動を見ながら年金がもらえる生活になるだろう。大多数の人間はゲームに参加することすらできなくなって、日本的な世界になるかもしれない。今までの日本人がそれで良かったように、それも結構幸せな生活なのかもしれない。


SWITCH後の世界は、過去をどれだけ引き継げるのだろうか。土台のない物作りは弱々しい感じがする。伝統工芸がコンテンツとしてしか扱われないのはどうなんだ。


制御工学の経験からすると、センサ重要。新しいデバイスが開発され、コモディティ化されるまでの部分だけは、旧来の物作りに近い利益が得られるだろう。メーカーの組織もそれに従ってずいぶん変わるだろう。アセンブルの世界は、より「おもてなし」指向に集約され、ソフト的な考え方に支配されるだろう。こういっては何だが、「雲の上」から転落してきた連中がそこに集まるだろう。


硬派なコンテンツは生き残るだろうが、今と同じではない。モーツァルトは、宮廷でしか演奏しない。それだけのことだ。マスに聴かせる必要などない。経営者からアルバイトまで、あらゆる階層が無個性だった資本主義時代は終わり、趣味をむき出しにした生き方が行われるだろう。

よし、私もツンデレ芸を磨いておかないとな!(結局そこか)